第182回 持株会社化と家族信託(その2)

  • レポート
  • 2020.08.31

前回(その1)では、

(1)株価が低いうちに子供に渡したい。
(2)実権は手放したくない。
という希望を持つお客様がいる。

そこに銀行が提案したのが
・持株会社化
持株会社を通して株を持つことで、
その後の値上がりを緩和する。
・種類株式
株主の権利が違う特殊な株で、
実権を手元に置く。
だった。

これらは一定の効果はあるものの、(議決
権)株を手元に置くため
・その後の維持が面倒
(2社分の運営・申告の手間・コスト、
種類株主総会の存在)
・いずれ次の手が必要
最終的な株の譲渡や特殊な株の整理
というお話を紹介しました。

その別の解決策として、
予告通り今回(その2)は、家族信託をご
紹介します。
正確性に欠ける部分もありますが、ざっく
りと。

家族信託(民事信託)
=財産の所有者が、誰かにその運用・管理
を任せ、そこから上がる利益の受取人を指
定できる仕組み

キーワード
・「委託者」=元の持ち主
・「受託者」=運用・管理を任される人
・・・・>財産を支配する実権を持つ
・「受益者」=「受益権」(財産からの利
益を受け取る権利)を持つ人

そして、ここが重要
※※税務上は、「受益権」が移転するとき
※※課税されることになっている。

株主の立場を分解すると
(A)議決権を使って実権を握る立場
(B)配当をもらって利益を得る立場
に分かれますが、このうち(B)が「受益者
」、(A)が「受託者」になります。

であるなら、
受託者=自分、受益者=子供
にすれば、
(1)株価が低いうちに子供に渡したい。
=「税務上」移転したい。
(2)実権は手放したくない。
=議決権は渡したくない。
を満たせるわけです。

(その具体策)
案①自己信託
株式は息子へ譲渡or贈与せず
・委託者=自分
・受託者=自分
・受益者=息子

案②受益信託
株式自体は息子へ譲渡or贈与して
・委託者=息子
・受託者=自分
・受益者=息子
とします。

自分が亡くなった時は、案①であれば受益
者に株が移る等と決めておきますから、最
初の設計時に最終段階まで決めておけます。

また、これには司法書士さんや公証役場に
も関与してもらって法的にも万全にセット
しますからなお安心。

ランニングコストは持株会社・種類株方式
よりも下げられます。

家族信託は、認知症対策として司法書士さ
んの業界が積極的に推進しているのですが、
今回のような事業承継対策としても注目さ
れています。

信託法改正の平成18年以来の制度で、1
0年以上経過しているとはいえまだ新しい
制度。
新しいだけでなく、銀行も信託銀行も儲か
らないのでこんな提案はしてくることはな
いでしょう。

事業承継の一手段として自ら認識しておく
と良いと思います。

■まとめ
___________________

事業承継の1つの解決策に家族信託がある。

■編集後記
___________________

不定期ながらおすすめ本を。

沢木耕太郎の最新刊『旅のつばくろ』
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最近までの日本各地の旅を、若い頃も振り
返りつつ書いています。
ショートエッセー集というジャンルでしょ
うか。

自分が年を取ったこともあるのかな。
性善説を信じる、というか、ありのままの
他人を受け入れる、というか。
昔よりはそんな境地もわずかながらわかっ
てきた気がしているのですが、本書でそれ
を補強してもらった気がしました。

一つ一つのお話は短いのですが、沁みる言
葉を引用します。
「かつて私は、自分の父親が死んだとき、
どうしてもっと話を聞いておかなかったの
だろう、と後悔した。父のことをほとんど
何も知らなかった、と。」

に続けて
「だが、生きていくというのは、そうした
後悔を無数にしながら歩むことなのだろう。
後悔なしに人生を送ることなどできない。
たぶん、後悔も人生なのだ。」

 

でも、私自身がお勧めなのは、この本その
ものよりも、沢木耕太郎自身です。
かなり古い本も含まれますが、

『深夜特急』は筆者の体験をトレースして
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な写真に対する研究と執念に感心しました。
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最初に何を?
そうですね。『深夜特急』第1巻かな。