第45回 ゼロベース

  • レポート
  • 2009.03.31

先日お客様である会社の取締役本部長と会食させていただきました。

事務所の近くだったということもあり、こちら側は担当者2人を含め計3人です。

東証一部上場企業の孫会社の経営を実質コントロールされている方で、よく勉強され、しっかりと色々考えてらっしゃるため、私よりもお若いのに、こちらが勉強させていただくことが多い方です。

その席で福沢諭吉の話になりました。
私共の担当が、福沢諭吉の本を愛読しているという話題がきっかけです。

本部長はそれについて、その本のどこが印象に残っているかという旨の質問をされました。
担当は一生懸命答えていましたが、それを受けて本部長は、自分が思うに、福沢諭吉の偉いところはゼロベースで考えることの重要性を理解していたことだ、とおっしゃいました。
ゼロベースとは、過去どうであったかとは無関係に、未来のことだけを考える、というような意味です。
旧幕府の役人であったにもかかわらず、幕府のしがらみと決別して福沢はそれを公言し、実行したから偉い、なかなかできるものではない、というお話でした。

なるほど。
私も同じ本を読みましたがそこには思い至りませんでした。
ゼロベース、重要です。

言葉はそのものではありませんが、私が公認会計士受験生に向けて講義をする「管理会計論」の世界でも、経営数値を用いて意思決定をする際に必要な概念として登場します。
そこでは未来の意思決定には無関係なコストのことを「埋没原価」と言います。
埋没原価はいくらあっても無関係であるため、将来の意思決定に反映する必要がないと説明されます。

埋没原価の真の意味は、どのような代替案を取っても変わらない共通のものだから考えなくて良い、という意味なのですが、過去に発生したコストはまさにそれです。
どのような代替案をとっても過去に発生したコストは変えられないからです。

その意味で、心理的には難しいことですが、たとえば過去に莫大なコストをかけたプロジェクトだから、、、という理由で将来の意思決定が拘束されてはいけないわけです。

以前、北野武監督(ビートたけしさん)が、映画を作るにあたって次のような話をされたと聞きました。
「このシーンはいくらかかったんだよな(だから使いたい)、という考えは捨てないと良いものはできない。」

まさにゼロベース。
過去にとらわれず、前を見ていかなければいけませんね。