第206回 税理士損害賠償責任保険

  • レポート
  • 2022.08.31


前回メルマガで、
>会計事務所の仕事が求める臨機応変さ・責
>任の重さを負担に感じる人がいるようです。

>同じ時間働くなら、責任の軽い同じ作業を
>ひたすらやっていた方が気楽だ。

そういって辞めていく人がいると書きまし
た。

実際、責任は重いです。

お恥ずかしい話ですが、私共の法人でも年
に数件のお客様への賠償事案が発生してい
ます。

その確率は年当たり全顧客の0.3%~0.5%
程度だと思いますが、お客様の数が少なか
った頃には全顧客数に0.003を乗じても1に
ならないものが、母数が増えると1以上に
なって発生してきます。

これに対して、うちの事務所では、
お客様から「どうしてくれるんだ?」など
と言われる前に事態を報告し、被害額を特
定して賠償させていただくようにしていま
す。

そして、少額で明らかなものを別として、
賠償額は私たちが決めるのではなく、第三
者の税理士さんの手を借りて客観的に測定
してもらっています。

ここで出てくるのが税理士損害賠償責任保
険。

これに加入していて、そこが提携する外部
の税理士先生に損害額の査定をしてもらう
わけです。

そして、お客様自ら弁護士を雇って裁判し
ても大差ないであろう参考金額として提示、
ご理解いただき、お支払いをします。

ただ、保険があればそれで終わりではあり
ません。
免責額があって、30万までは事務所が負
担しますし、出るのは本税のみ。

つまり、法人税や消費税といった税金の本
体部分のみであって、過少申告加算税や延
滞税といった付帯税は対象外ですからこれ
も支払います。

保険を使っても事務所の負担額は最低30
万、それどころか軽く百万円を超えてくる
こともあるわけです。

関与した従業員の給料を減らすことなどあ
りませんが、とはいえお客様は迷惑してい
ますし、事務所は多額の賠償をしているこ
とはわかるわけですから、責任の重さを感
じることになります。

だからこの話は、毎年の新卒向けの会社説
明会でもしっかり言うようにしています。

・会計事務所の失敗はすぐにオカネで測定
 できます。
・責任は重いですよ。
・嫌な気持ちになることもありますよ。
と。

とはいえ、いくら入社前に聞いても実感す
るのはやはり実際に働いてみてからのよう
です。

ちなみに、税理士損害賠償責任保険は任意
保険。

2022年7月1日時点の加入率は税理士法人で
86.26%、個人事務所で52.46%とのこと。
https://www.zeirishi-hoken.co.jp/zeibai/index.html

加入率が必ずしも高くないのは正直驚きで
す。

保険料を負担に思う気持ちは分かりますが、
失敗しない人はいませんから、何かあった
時にどうするんだろう?と。
(前の先生にうやむやにされた、と憤慨す
るお客様にも出くわすこともあるので、そ
うなるのかもしれませんが。)

今回は、あまり積極的にお伝えするのはど
うなのかな、というお話をしました。

他人のカネ勘定だけしている税理士は気楽
な商売に見えるかもしれませんが、これだ
けの覚悟でやっていることをお客様にも入
社希望者にももっとお伝えした方が良いの
かな、と思っています。


なお、これを踏まえて、ご覧の皆さまへの
アドバイス。

会計事務所を選定する際は、保険に入って
いるかを聞いてみると良いかもしれません。

これに対して、「自分は失敗しないから入
っていない」とか返ってきたときは考え直
した方が良いと思います。


■まとめ
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税理士は気楽な商売に見えるかもしれませ
んが、相応の覚悟でやってます。

会計事務所を選定する際は、保険に入って
いるかを聞いてみると良いかもしれません。


■編集後記
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コロナは収束しないどころか増えているも
のの、各所の活動は戻りつつあるようです。
その1つが税務調査。

私たちの税務署対応も増えてきました。

ただ、ここ3年ほどのコロナによって特に
若手調査官の経験蓄積が途切れているよう
な気がします。

やり取りした後で訂正連絡が先輩や上司か
らかかってくることもここ数か月でも何回
かありました。

どこも大変な思いをしてきたのは同じよう
です。

それぞれの立場で頑張っていきましょうか。