第158回 上得意の功罪

  • レポート
  • 2018.08.31

前回のメルマガでは「自社ビルの功罪」としてお届けしました。
https://archives.mag2.com/0001000369/20180815200000001.html

特にシリーズ化を意識しているのではないのですが、今回は「上得意の功罪」について。

上得意

昔からの言い方ですが、特に多く買ってくれたり儲けさせてくれる良いお客様、という意味です。

先日、決算を終えたお客様とお話をしていて、改めて考える機会がありました。

その席で、5期分の損益の推移を前に私は
「良い決算でしたね。」と言いました。

社長も「はい。」と。
若干の感慨がこもっていたと思います。

この決算、
売上はここ5年間で最大だったわけではなく、むしろ真ん中くらい。
利益は最大ではありましたが、例年をちょっと上回るくらいでした。

その何が良かったか。

売上構成の割合です。
上得意が4割ほどになっていました。

私がこのお客様に関与させていただいたのは先代の社長の時でした。

私より15歳上の方で、最初の何年かは個人経営でしたが、あるとき、別の業界で働いている息子を呼び寄せたいと言うことになってそれを機に会社にすることに。

先代がそのまま社長に就任し、長男は取締役です。
大きな借金をして新しい社屋を建て設備を導入しました。

普通ならここで出てくる長男はボンクラだと面白いのかもしれませんが、まじめで人柄も良く仕事熱心。
私もお会いしていて清々しい気分になる方です。

そんな長男が数年して仕事に慣れた頃、先代が急逝しました。

先月普通にお電話したのにな、とお通夜で不思議な気持ちになったことを思い出します。
そのままあわただしく長男が社長に就任。
社屋は新しいものの借金も残っていて誰が見ても大変な立場です。

また、その会社の問題は、ある上得意に売上を9割依存していることでした。

その上、そこの業績自体が悪化傾向にあるようで、年々少しずつ受注が縮小する嫌な感じが続いていました。

それでも先代存命の頃は、
世話になってきたんだから大事にしろ、と言われていたようです。

息子は、そんなに依存していてはまずい、新しいところを開拓しないと、、、と結構真剣な議論をしていたとのこと。

結局その対応は新社長になって始めることになりました。

既存の仕事をこなしながら新規へ営業をかけていく。
大変なわけです。

この会社に限らず、上得意への依存を解消するのは本当に大変です。
なぜなら、
<上得意>
良く知った先なので
・営業面
 そのための人員・コスト・精神的負担が少ない。
・業務の実施
 進め方もわかっていて、想定外のことがない。
・採算
 一定の規模、利幅が見込める。

一方で
<新規>
良く知らないので
・営業面
 そのための人員・コスト・精神的負担が生じる。
・業務の実施
 手探りで、想定外のことも多い。
 すれ違いで深刻なトラブルが発生することも。
・採算
 特に最初は規模は小さく、利幅は薄い。

その結果、上得意にどんどん依存していき、外の仕事ができない体質になっていきます。
新規を取ろうとすると
「そんな細かい、儲からない仕事にリソースを振り向けるのはムダ」となりやすく、短期的にはそれが正しいのでそこも難しいところです。

そんな困難を乗り越えて今回の決算を導いた社長。

まずは拍手を、
そして、まだまだこれから先に待ち受ける壁を元気に乗り越えて行かれるためにエールを、
送りたいと思います。

*************************** まとめ ********************************

上得意への依存は避けるべき。

ただ、その解消は難しい。

***************************あとがき*********************************

本稿のように、会計事務所の仕事は、多くの業界や立場の経営者の真剣な試みを間近で、それも味方となって共有できるありがたい立場だと思います。

日々勉強させていただいています。
感謝。