第24回 中小企業の会計について

  • レポート
  • 2006.11.19

最近の傾向として、中小企業においても正しい会計処理を志向するべき、という流れが加速してきました。 確かにこれまで、会計理論上あるべき、というものからかけ離れた処理が一部で見られたところです。

私自身、利益が出ていない期には減価償却や引当金計上を見送る、といったことも平気で行われる中小企業特有の対応に(特に実務の世界に入ったときには)違和感を覚えたものでした。 監査が入らない会社では、利益を無理に出すことに利害が一致する税務署・銀行だけを相手にするために、こうしたことが少なからず見られたところです。

しかし、この是正のため、大企業並といわないまでも、それに近い会計処理指針(*1)が出されました。 (珍しく日本公認会計士協会と税理士会が共同で参画した指針です) そして、これにしたがっているかどうかのチェックリストが銀行側に要求されることも多くなってきました。 (お客様が銀行借入をするに当って、銀行側がそのチェックリスト(*2)を顧問会計士・税理士に記載してもらうように求める、それで良いスコアが出たら若干利率等で優遇される、というスタイルが多く、今年も何件か対応したところです。) これまでのような、奔放な処理を元に融資をすることは、銀行側も見過ごすことができない、ということなのだと思います。

この傾向は今後も続くと思われ、あるべき姿として、基本的には良い傾向だと考えます。 損を出す方向には税務署がうるさいけれども、利益が出る方向には寛容だからと、銀行が喜ぶ方向へ若干の黒字決算を意図的に組む、ということを続けていると、あるときを境に上場を目指したとき、まったく違う観点での対応が求められ、思考や組織がついていけない、といった事態に直面することになります。

ただ、裏を返すと、上場を目指さず、銀行借入もしないのであれば、これまで通り、税務だけを見据えた対応を続けていくことも可能なわけで、会計の役割を税務申告のため、と割り切れば、簡単でこれも良いのかもしれません。(会計の正確性を追及して決算書を作成するくと、会計上はOKだが税務上はNGだから調整を入れる、ということが多くなりますが、もともと税務だけを考えていればこうしたことはかなり少なくなるからです。)

その会社の会計情報を求める利害関係者にどのような主体があるのかを見極め、会計情報の質を変える、ということは、常に最高精度のものを志向すべき、という一般的な会計理論と整合しない部分もありますが、それ自体は否定すべきものではないのかもしれません。

ASCはそのようなお客様それぞれの立場に合わせつつ、一方で、会計の専門家としての立場を忘れないようにこれからもサポートしていきます。

(*1)「中小企業の会計に関する指針」
日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会
(*2)「中小企業の会計に関する指針」の適用に関するチェックリスト」
日本税理士会連合会